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将棋PRESSBACK NUMBER
「藤井聡太さんに抜かれるのなら光栄です」最年少名人・谷川浩司が語る“藤井将棋”の完璧さ「気配りができるところも含めて…」
posted2023/02/26 06:01
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
Nanae Suzuki/Yuki Suenaga
光速の寄せを旗印とした谷川浩司が、棋界の頂点である名人位に颯爽と登り詰めたのは21歳2カ月8日という若き日。中原誠の24歳9カ月4日を大きく飛び越える史上最年少記録で、誰もが不滅と信じ、心からの拍手を送ったものだ。しかし、令和の時代に現れた天才棋士・藤井聡太が、40年ぶりにその大記録を塗り替える可能性が、いま現実味を帯びてきている。
自身が打ち立てた輝かしい記録から最年少の看板を剥ぎ取られる危機を迎えている谷川だが、「思いは揺れ動きましたが」と前置きを入れはしたものの、「藤井さんに抜かれるのなら、むしろ光栄なことと考えています」と、達観した表情を浮かべるのだ。
恐るべきはその吸収力。読んだことが蓄積となって…
'21年5月に『藤井聡太論 将棋の未来』、さらに今年に入って『藤井聡太はどこまで強くなるのか 名人への道』(ともに講談社+α新書)を書き下ろした谷川は、いまや藤井聡太ウォッチャーの先頭を走る人でもある。
「藤井聡太さんの強さの源は、答えが出ない局面を前にいつまでも考え続けられる力だと思います。中盤、終盤と局面が進んでいけば、そこには答えが存在するので、たどり着けるかどうかは別として、プロなら深いところまで考えたくなります。しかし、どう指しても一局と思えるようなところで深く考えるというのは実はなかなか難しいこと。勝負はもっと先の方で決まるという考えもあるし、序盤で時間を使いすぎると中終盤で時間切迫に追われることにも繋がるわけで、戦略的にどうかということもあります。でも藤井さんは、特に2日制のタイトル戦で、答えが出ない局面を前にじっくりと時間を注ぎ込むんです。そして、恐るべきはその吸収力。読んだことが確かな蓄積となって、彼をさらに強くしているんです」
20年9月9日、谷川は藤井聡太とB級2組順位戦の真剣勝負を戦った。そこで勝つことが、藤井の最年少名人への道程を遅らせるかもしれないわけで、新旧の天才棋士の激突はファンの注目を一身に集めた。
藤井さんの集中力の強さに引き込まれて行く感覚
その対局の少し前のタイミングで谷川から大一番に向かう心境を聞く機会があり、「イチロー選手も、大谷翔平選手の球を打ってみたかったと思うんですよね」と、谷川自身がこの対局を楽しみにしている気持ちを印象的なセリフで表現してくれたものだ。